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東京地方裁判所 平成4年(ワ)19836号 判決

原告

トータス株式会社

右代表者代表取締役

高木茂和

右訴訟代理人弁護士

米津稜威雄

田井純

増田修

長嶋憲一

麥田浩一郎

佐貫葉子

長尾節之

野口英彦

被告

株式会社暮しの手帖社

右代表者代表取締役

大橋鎭子

右訴訟代理人弁護士

岡村了一

前嶋繁雄

鈴木勝利

齋藤大

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、原告に対し、一二〇〇万円及びこれに対する平成四年一一月二九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告は、別紙のとおりの謝罪文を、被告発行の「暮しの手帖」に掲載せよ。

第二  事案の概要

本件は、被告が発行する生活雑誌の浄水器に関する記事が、浄水器製造メーカーである原告の製造・販売した浄水器を中傷する内容であって、原告の名誉ないし信用を毀損するとして、顧客から解約を受けるなどしたことによる損害及び慰謝料の合計一二〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成四年一一月二九日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、右雑誌上への謝罪広告の掲載を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、浄水器の製造・販売等を目的とする株式会社であり、被告は、雑誌「暮しの手帖」の発行等を目的とする株式会社である。

2  被告は、右「暮しの手帖」の第三八号(一九九二年六月・七月)の「水・安全でおいしい水は取り戻せるか」と題する飲料水に関する特集記事において、「浄水器は役に立つか」との題名で、原告の製造・販売する浄水器「アクアゴールド・ノア」(以下「本件浄水器」という。)を含む七器種の蛇口直結型浄水器と、据置型浄水器一器種(アール・エッチ・エス社製ハーレーⅡ、以下「ハーレーⅡ」という。)とを比較対照する、浄水器の性能等に関する記事を掲載した(以下「本件記事」という。)。

3  本件記事の内容

(一) 水道水中のトリハロメタン除去能力について、「せっかく浄水器をつけるのなら、せめて水道水にあるトリハロメタンの50%はとってもらいたいところです。ところが、アクアゴールドは、半月以上も使うと、50%以下しかとらなくなります。」

他方、ハーレーⅡについては、「ハーレーⅡだけは、7年分もの水を流した後でも、80%以上のトリハロメタンをとっていました。」(以下、両記事を併せて「本件記事(一)」という。)。

なお、トリハロメタンとは、浄水の塩素処理工程中において、遊離塩素と原水中の有機物質とが反応して生成するクロロホルム、ブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタン及びブロモホルムの四種類の有機塩素化合物の総称であり、発ガン性物質であるといわれている。

(二) 浄水器通過後の水道水中の細菌の量について、「朝一番の水や2日くらい使わなかったときの水、捨て水をしたあとの水の、一般細菌数を調べてみました。アクアゴールドは、二カ月も使うと、朝一番の水に、水道水の基準以上の数百コから数千コの細菌がでてくるようになりました。30秒ほど流すと基準以下に減りましたが、テストしたのは一年中で水の一番冷たい季節です。夏にはもっとふえるかもしれません。」(以下「本件記事(二)」という。)。

(三) 水道水中のカビ臭について、「カビ臭は、ダムや湖に、アオコなどの藻がふえたとき、藻からでてくるものです。このカビ臭のもとは、2―メチルイソボルネオールとかジオスミンという化学物質です。そこでこのカビ臭のもとでニオイをつけた水をそれぞれの浄水器に通して、ニオイのとれ具合を調べました。アクアゴールドは最初から、もとの水と同じくらい強いニオイの水が出てきました。カビ臭さをとるために、この浄水器をつけたりしたら悲惨です。」

他方、ハーレーⅡについては、「そこへいくとハーレーⅡは、7年たっても、もとの水のカビ臭いニオイは、ほとんど感じられませんでした。」(以下、両記事を併せて「本件記事(三)」という。)。

(四) 各器種を七年間にわたり使用した場合の費用(浄水器本体の価格と七年分のカートリッジ代、ハーレーⅡについては本体価格と殺菌のためのお湯代の合計額)について、アクアゴールドは約一四万六〇〇〇円(七器種の蛇口直結型浄水器中では最も高額である。)であるとし、他方、ハーレーⅡは約一九万二〇〇〇円であるが「性能を考えたら、ハーレーⅡは決して高くないといえます。」(以下「本件記事(四)」という。)。

二  原告の主張

1  本件記事は、全体として、ハーレーⅡの浄水器としての優位を強調する内容となっており、記事に名を借りてハーレーⅡの宣伝を目的とするものである一方、売上の増大してきた本件浄水器について、ことさらにその性能を過少評価することを目的とした記事である。

本件記事は、読者に、本件浄水器の性能・品質がハーレーⅡに劣る商品であるとして、本件浄水器の性能に対する社会的評価を低下させるもので、ひいては原告の名誉ないし信用を毀損するものである。

2  損害

(一) 本件記事の掲載を理由として、原告は顧客・販売員から契約を解除されるなどされたため、少なくとも二〇〇万円の損害を被った。

(二) 本件記事、本件浄水器の性能・品質を不当に中傷するものであって、その掲載により、原告は信用ないし名誉を毀損され無形の損害を被った。右損害を慰謝し、その名誉を回復するには、一〇〇〇万円の支払及び後記の名誉回復処分が相当である。

3  よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求権により、一二〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成四年一一月二九日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求め、また名誉回復処分として別紙のとおりの謝罪広告掲載を求めるものである。

三  被告の主張

1  本件記事は、近時、水道水のカビ臭や発ガン性物質であるトリハロメタンの含有等について消費者の間に不安が高まっていることを背景にして、良質な水を確保するための方策を検討するという観点から、消費者にとって身近な浄水器の有用性を試すことを内容とするものであって、右は公共の利害に関する事実である。また本件記事の掲載は、浄水器の使用により、水道水に対する消費者の不安・不満がどれだけ解決されるのかを知る等という公益を図る目的に出たものである。決して個々の浄水器を宣伝したり、また中傷したりする目的で掲載したものではない。

2  被告は、本件記事掲載のために以下の実験を行ったものであるが、右各実験は、浄水器が飲料水に対する消費者の不安や不満を解決するのに役立つかという観点から、八種の浄水器についてできる限り公正かつ正確な方法で行われたものであり、本件記事はその結果を記載したものである。

(一) 実験対照浄水器の選択について

被告は、右1の目的のため、比較的消費者に知られた器種から本件浄水器を含めた七器種を選定し、更に蛇口直結型のみを比較したのではその性能の浄水器全体における水準が不明確になることに配慮し、参考として読者からの問い合わせも多い据置型のハーレーⅡを実験に加えることとした。

(二) 実験担当者について

本件実験については必ずしも資格が必要というわけではない。しかし、本件実験自体ある程度専門的であって、担当者にも相応の専門的知識が必要であることを考慮して、実験担当者を選任している。

(三) 流水量について

実験は、三か月に一〇〇〇l(一日一一l)の割合の流水量を基準とし、これに基づいて各器種に表示されている使用限界に対応する水量まで、水圧を揃えていずれも一kgf/cm2で水を流した。分析に使う水については、流水量を揃え毎分二lで流して採水した。

被告が、右流水量を基準としたのは、各器種において設定されている一日当たりの流水量は異なっているものの、消費者が家庭で使用する場合、器種によって意識的に流水量を変えることは考え難く、各メーカー設定の流水量に従うことに意味がないと判断したため、内四器種に設定された比較的一致している一日使用水量を前提として、使用期間の限界を三か月とした場合の流水量値をとったことによる。また水圧を揃えることとしたのは毎日実験をするための便宜であり、一方分析に使う水について流水量を揃えることとしたのは、水圧一定の下では通水可能量の少ない器種に有利になる蓋然性が高いので、公平に性能を比較するためである。

本件浄水器については、原告表示による使用限界が三か月であることから、被告は右基準にしたがって一〇〇〇lの水量(実験期間二〇日間中一日当たり五〇l・これに対して原告の設定した三か月の使用水量は二〇〇〇lである。)を流した。他方、ハーレーⅡについては、表示使用期間である七年間分の水(二万八〇〇〇l)を流す必要がある等の理由から、3.8kgf/cm2に水圧を上げて実験したが、ハーレーⅡの場合は、本来流水量が少ないことから、水圧を上げても流水量は他の器種と殆ど異ならず、不利な条件設定とはいえない。

(四) 各実験方法について

(1) 本件記事(一)については、日本水道協会発行の「上水試験方法」の低沸点有機ハロゲン化合物の分析法及び「衛生試験法・注解」(日本薬学会編)の環境試験法の水質試験法、飲料水、低沸点有機ハロゲン化合物の項に従ってトリハロメタン除去実験を実施し、実験期間中の特定時点における原水(各浄水器を通す前の水道水)中の各トリハロメタン濃度と検水(各浄水器を通した水)中のそれとをガスクロマトグラフを用いて測定した上、右値を低沸点有機ハロゲン化合物標準溶液のガスクロマトグラフに基づいて作成した検量線及び計算式に当てはめて比較することにより、右各時点におけるトリハロメタンの除去率を求めた。

(2) 本件記事(二)については、「上水試験法」の微生物試験及び「衛生試験法・注解」の水質試験法の細菌試験の項を参考に、一定時間浄水器内に滞留させた水と、三〇秒流水させた水とを検水としてそれぞれ孵卵器で培養した上、一般細菌数を測定する実験を行った。

(3) 本件記事(三)については、「上水試験法」の臭気試験法及び「衛生試験法・注解」の水質試験法、臭気の項を参考に官能テストを実施し、予め2―メチルイソボルネオールでカビ臭を付けた水を各浄水器に通した検水を、被告社員九名ないし一三名が官能することによりカビ臭を判定した。

(五) 実験結果について

トリハロメタン除去実験に関し、実験中の二分の一経過時点(平成四年二月一九日)及び四分の三経過時点(同月二六日)において、通常水道水中に含まれるより数倍高いクロロホルムが検出されたため、被告は右除去率を求めるにあたり、クロロホルムの値を除外したのであるが、その理由は、右事故の起こらなかった、実験開始時点(同月五日)、四分の一経過時点(同月一二日)及び最終時点(同年三月三日)におけるクロロホルム以外の三つの化合物の除去率と、クロロホルムも含む四つの化合物(トリハロメタン)の除去率を比較したところ、測定誤差が一〇パーセントの範囲内で一致したため、三つの化合物のデータでもトリハロメタンの除去率として使用可能であると判断したことにある。

3  仮に、被告の実験方法やデータの採り方等が万全でなかったとしても、被告は、浄水器の性能について消費者である読者に分かりやすく理解してもらうという観点から、必要かつ十分の実験をした上で本件記事を掲載したのであるから、本件記事の内容が真実であると信じるについて相当の理由があるというべきである。

4  なお本件記事(四)については、原告の名誉ないし信用を毀損するものとはいえない。すなわち、費用を計算する際の基準となる期間をいかに設定するかは、被告の自由である上、各メーカーの設定に従って計算する限り、その費用は客観的に算出されるものであるから、右費用を算出すること自体(被告は「高い」「安い」の記述はしていない。)は名誉毀損の問題を生じないからである。

仮に右記事が原告の名誉ないし信用を毀損するものであるとしても、被告は原告の指定に従って計算したものであるから、その結果は当然に真実である。

四  原告の反論

1  本件記事の真実性について

(一) 本件記事(一)について

原告は、平成四年四月ころ、社団法人東京都食品衛生協会内東京食品技術研究所に本件浄水器のテストを依頼したところ、その結果によれば、本件浄水器のトリハロメタン除去能力は使用開始直後は九〇パーセント以上、一〇〇〇l通水時で約四二パーセント及び二〇〇〇l通水時も同様であった。他方本件記事(一)によれば、本件浄水器のトリハロメタン除去能力は半月(一六五l通水時)で五〇パーセント以下となり、二か月半(八二五l通水時)では除去能力が〇となるとしているものであって、事実に反する。

(二) 本件記事(二)について

原告は、平成二年一一月ころ、社団法人東京都食品衛生協会内東京食品技術研究所に本件浄水器のテストを依頼したところ、同研究所から二〇〇〇l通水時においても、一般細菌・大腸菌ともに不検出(一ml中に〇)との結果を受けているのであり、本件浄水器を二か月使用(六七〇l通水時)した段階で、水道法基準を数倍から十数倍も上回る細菌が検出されたとする本件記事(二)は事実に反する。

(三) 本件記事(四)について

本件記事(四)は、使用期間を七年と設定しているが、これは耐用年数が七年であるハーレーⅡにとって最も有利な設定であり、仮にこの期間を一年ないし二年程度の短期間に想定し、もしくはハーレーⅡについて買換えを要する八年に設定した場合には、試算結果が異なってくると思われるのに、本件記事(四)には、この点について何ら触れられていない。

2  本件実験方法の相当性について

(一) 実験条件の設定について

(1) 浄水器には、蛇口直結型と据置型があるところ、据置型は蛇口直結型に比べて大型で、濾材の含有量も多く寿命が長いのに対し、蛇口直結型は軽く且つ小型であるメリットを有するものの、濾材の入ったカートリッジを数か月で交換することを要するとされるなど、双方の商品特性は異なっている。しかるに、これらの性能を単純に比較検討することは、右商品特性を無視するものであって相当でない。

(2) 本件記事は、三か月先ないし一年先の各器種の性能及びハーレーⅡについては七年先の性能についても記載されているが、本件記事のもとになる実験は、平成四年二月から三月ころにかけて行われたものである。したがって、実験期間は二か月間足らずであるところ、浄水器は、季節を通じて、また相当期間使用することを前提に製造されているのであるから、実験に際しては水質・水温・カートリッジ等の経時的変化を考慮すべきであるのに、これを全く考慮していない点で著しく不相当な実験方法である。

(3) 浄水場での処理にあたっては、原水中のアンモニア濃度を基準として塩素投入量を決定しているから、原水の水質自体が常に変動しているとともに、水道の水圧も常に変動し、そのために水道管内の汚物が大量に排出されるなどの可能性があるのだから、原水の水質等が器種毎に異ならないようにするためには、貯水供給タンクを設けてそこから各器種へ原水を供給する方法をとるべきであるが、被告はこのような方法をとっていない。

(二) 各実験方法について

(1) トリハロメタン除去実験については、そもそも有害物質の除去能力の比較は、単なる月日の経過のみを基準とすべきではなく、通水量との関係及び濾材のカートリッジの使用限界との関係(本件浄水器は通水量二〇〇〇l、すなわち一日あたり二〇lの濾過水を使用する家庭で約三か月の使用限界を設定している。)を考慮すべきである。しかし、被告はこれを考慮せず、単に時間的経過のみを基準としたため、他の器種に比して本来通水可能量の多い本件浄水器の能力を過少のものと思わせる内容になっている点で、本件記事(一)は、不公平・不正確である。

またトリハロメタンの中では、クロロホルムが最も重要であり、これを考慮せずにトリハロメタンの計量をすることは無意味である。被告の実験においては、二分の一経過時点でのクロロホルムを含む総トリハロメタンの量が、原水よりも浄水器を通過した水の方がはるかに大きく、更に四分の三経過時点においては各浄水器の総トリハロメタン除去能力が低下するにもかかわらず、浄水器通過後総トリハロメタンの量は大幅に減少しているなど、奇妙な結果が出たのであるが、被告は右クロロホルムの異常値の原因について何ら検証することなく単にこれを除外してデータを算出したものであって、これは科学者の態度として相当ではないし、一〇パーセントの測定誤差は許される範囲内であるという被告の主張には根拠がない。

(2) 細菌数測定実験については、器具等の完全な殺菌及び空気中から細菌がシャーレ上に落下するのを防止するための措置についてはいずれも十分には配慮されていないし、細菌によって増殖速度が異なるため、検水が各器種内で溜まっている時間を厳格に一定にすること及び細菌の種類を特定することが必要であるがこの点についても考慮されていない。また、実験に関与する人間も専門家である必要がある。

(3) カビ臭除去実験については、ある浄水器を通過した水の官能は、その前にテストした水の官能の影響で異なる官能を示すのであり、また主観的なテストであるから、五感の優れた者を使い、かつ右の如き影響を受けないようにすべきである。

五  争点

1  本件記事(一)ないし(四)は、原告の名誉ないし信用を毀損するか。

2  本件記事の公益性並びに公益目的性

3  本件記事(一)ないし(三)の基礎となった実験結果は真実であり、したがって同記事の内容は真実といえるか。

第三  争点に対する判断

一  争点1(本件記事は原告の名誉ないし信用を毀損するか)について

1  本件記事(一)ないし(三)について

前記争いのない事実(第二の一の2及び3)によれば、本件記事(一)ないし(三)は、「浄水器は役に立つか」との項目において、八器種の浄水器に関してトリハロメタン除去能力、溜り水中の一般細菌数及びカビ臭の除去能力をテストした結果を示した記事であって、直接、原告の製造・販売にかかる本件浄水器の性能に関する実験結果を指摘した記事であるところ、同記事は、一般読者に対し、本件浄水器が、浄水器として消費者が期待する性能を備えていない劣った製品であるとの印象を与え、ひいてはその製造・販売元である原告の社会的評価を低下させるに足る記事であるといえるから、本件記事(一)ないし(三)は、原告の名誉ないし信用を毀損するものといえる。

2 しかしながら、名誉毀損による不法行為については、その行為が公共の利害に関する事実に係りもっぱら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、右行為には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当であり、もし、右事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、右行為には故意もしくは過失がなく、結局、不法行為は成立しないものと解するのが相当である(最高裁昭和四一年六月二三日第一小法廷判決民集二〇巻五号一一一八頁)。二以下においてこの点を検討する。

3  本件記事(四)について

乙一号証及び前記争いのない事実(第二の一の2及び3)によれば、本件記事(四)は前記「浄水器は役に立つか」との項目のうち「お金もかかる」との題名で浄水器にかかる費用を計算した記事であって、同記事は「ハーレーⅡは一週間に一度、20分以上も洗い流す熱湯分の費用がかかりますが、7年以上もつといっています。7年間にどのくらいお湯代がかかるか、ほかの浄水器では、この期間、表示どおりにカートリッジを交換したらどのくらいになるのか、浄水器の値段も含めて、それぞれいくらお金がかかるか、計算したのが下の表です。」とした後「7年間にどのくらい費用がかかるか」との表を掲載し、その中で七器種の蛇口直結型浄水器については浄水器本体の価格と七年間に交換を要するカートリッジ代金の合計額を、ハーレーⅡについては浄水器本体の価格と殺菌用の熱湯代の合計額をそれぞれ算出した上並列して表示しているものである。そして、このうち本件浄水器に関しては浄水器本体の価格が一万六二七四円(消費税込み)であり、交換を要するカートリッジ(一個当たり四八〇〇円)が二七個(当初付属分を除く)の合計約一四万六〇〇〇円としているのみであり、それ以上に、本件浄水器の費用の多寡についは記載していない。また、乙六、七号証によれば、本件浄水器の本体価格は一万五八〇〇円、カートリッジ価格は四八〇〇円であり、かつカートリッジの交換時期の目安は約三か月とされている(したがって当初付属のカートリッジを除けば七年間には二七個必要となる。)のであるから、結局本件記事(四)は、本件浄水器の七年分の費用について右価格に従って客観的に計算してその結果を表示したに過ぎないものであって、本件浄水器の性能に対する評価とは関係がなく、原告の社会的評価を低下させるおそれのある事実を摘示したものとはいえないから、原告に対する名誉ないし信用毀損とはならないというべきである。

この点原告は、費用の計算期間がハーレーⅡに有利であって不公平である旨主張するが、殊更に一器種にとって有利な設定とはいえない以上、費用の計算期間を何年に設定するかは、表現者の裁量に属する事柄であると言わざるを得ない。確かに七年という期間は、ハーレーⅡにとっては買換えを要しない期間ではあるものの、乙一号証によれば、それでも「やはり一番高いのはハーレーⅡです。」との結果が出ている(約一九万二〇〇〇円)のであるから、殊更にハーレーⅡにとって有利な設定であるともいえない。

また、本件記事で、本件浄水器は性能を考えれば割高であるとの意味が読み取れるとしても、それは、本件記事(一)ないし(三)について右2の各要件が認められれば、結果として名誉毀損とはならず、独自に検討するには及ばない。

なお、本件記事中の「テストを終えて」に記載されている「もし、トリハロメタンなどをなるべくゼロに近づけたいという家庭なら、今のところハーレーⅡ以外おすすめできません。しかも、このハーレーⅡはカルキ臭さもカビ臭さも、相当な長期間、きちんととってくれる浄水器です。」とする記事については、本件浄水器の性能について摘示したものではないから、原告に対する名誉毀損とならない(本件浄水器の性能との対比を記述したと理解すれば、本件浄水器(一)ないし(三)について検討すれば足りる。)。したがって、以下においては本件記事(一)ないし(三)について、右2の各要件を検討する。

二  争点2(本件記事の公益性及び公益目的性)について

1  本件記事は「水・安全でおいしい水は取り戻せるか」との題名の水道水に関する特集記事において浄水器をテストするものであり、水道水は現在の国民の日常生活にとって不可欠であることからするならば、それが社会全体の利害に関わることは明らかであるから、本件記事は公益に関わるものであるといえる。

2  また、乙一号証によれば、本件記事の前文として「蛇口をひねればおいしい水が出る…かつて私たちはそれが当たり前とおもっていましたが、どうやら過去の話になったようです。いつのころからか、カビの臭いが鼻につく、発ガン性物質のトリハロメタンが入っている、などなど、水について不安が高まってきたからです。」「水質は、わるくなるばかりなのでしょうか。どうすれば、おいしい水が飲めるのでしょうか。今回、私たちは、いま水について何ができるのか、国や自治体にどう動いてほしいのか、いろいろ考えてみることにしました。まず、自分たちの身近な問題から、ということで、第一部では浄水器を、第二部ではミネラルウォーターを取り上げました。」との記載があること、本件記事中には、消費者に対して飲料水についてのアンケートを実施した結果、「現実にお金を払って浄水器を使っている人が、これだけたくさんいるということは、水道に対する不信感が、たんに口先だけでなく、切実であることを示している、とおもいます。この集計結果をもとに、私たちは、今回の水の特集を、おもいきって浄水器のテストからはじめることにしました。」との記載があることがそれぞれ認められるのであるから、本件記事の掲載目的は、家庭生活における浄水器の性能テストを行うことにより、水道水に対する消費者の不満がどこまで解消されるのかの可能性を検討するという専ら公益を図る目的に出たものであると認められる。

この点、原告は、本件記事はハーレーⅡの宣伝を目的とした記事であると主張する。確かに、乙一号証によれば、本件記事中には、「テストを終えて」と題する総括の項に、「もし、トリハロメタンなどをなるべくゼロに近づけたいという家庭なら、今のところハーレーⅡ以外おすすめできません。」等、ハーレーⅡの浄水器としての性能を評価する内容の記事が存在するのではあるが、本件記事中には右記事に続いて、「ハーレーⅡの問題は、約15万円というネダンと、毎週一度熱湯を通さなければならない手間と費用です。いやそれ以上に問題なのは、これをつけるだけで不安や懸念が解消されるという考え方かもしれません。」との記載が存在し、また同項の冒頭には「今回テストしたどの浄水器がいいかを一言でいうのは、かなり無理な試みです。」との記載も存在すること、証人杉村民子(以下「証人杉村」という。)によれば、「暮しの手帖」は商品テストを通じて消費者の生活向上に寄与することを目的としており、そのために商品広告を一切掲載していないことが認められ、以上と前記の本件記事の前文など併せ考慮すれば、本件記事中の前記記載をもって、本件記事がハーレーⅡの宣伝を目的とした記事ということはできない。また、甲一三号証によれば、ハーレーⅡの販売会社では、本件記事の存在を同浄水器の販売チラシに使用していることが認められるが、そのことから、直ちに本件記事が同浄水器の宣伝を目的とした記事であると推認することはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。

三  争点3(本件記事の真実性)について

1  証拠(乙一五ないし一八、二一ないし二八、三八、三九、四九・証人杉村)によれば、被告は本件記事掲載のために以下の内容の各実験(以下「本件実験」という。)を行ったことが認められる。

(一) 実験対象浄水器

蛇口直結型として本件浄水器を含めた七器種及び据置型としてハーレーⅡの合計八器種

(二) 実験期間、場所及び担当者

平成四年一月に各浄水器を購入した後、同年二月五日から同年四月一日までの間、被告化学実験室内(但し、トリハロメタン除去実験については、昭和大学薬学部衛生化学教室)において、被告社員杉村民子(東京大学薬学系大学院修士課程終了・薬剤師)、同高野容子(千葉大学理学部化学科卒)及び同谷本絵麻(東京理科大学薬学部薬学科卒)を中心として行い、同年四月に実験結果の分析を終了した。

(三) 実験の際の流水量

実験は、三か月に一〇〇〇l(一日一一l)の割合の流水量を基準とし、これに基づいて各器種に表示されている使用限界に対応する水量まで、水圧を揃えていずれも一kgf/cm2で水を流した。その後、分析に使う水については、流水量を揃え毎分二lで採水した。

本件浄水器については、被告は使用限界を三か月であるとして一〇〇〇lの水量を流し、平成四年二月五日から同年三月三日までのうち休日等を除いた二〇日間に、一日につき五〇lの水を流した。

一方ハーレーⅡについては、水圧を3.8kgf/cm2とした上四〇日間に一日平均七〇〇lの水を流したが、分析の際には毎分二lの流水量で採水した。

(四) 各実験方法

(1) トリハロメタン除去実験(本件記事(一)について)

各浄水器について実験開始時(平成四年二月五日)、四分の一経過時(同月一二日)、二分の一経過時(同月一八日)、四分の三経過時(同月二六日)、最終時(同年三月三日)に検水を採取(但し、ハーレーⅡについては、同年三月二四日にも採取)して、以下のとおり、ガスクロマトグラフ法によった(以下本件実験における測定時点についていうときは、右の例にしたがう。)。

予めよく洗浄したガラス瓶に検水を泡立てないように静かに採取し、検水の変質を防ぐため、pH値が約二となるようにトリハロメタン測定用精製水で約一〇倍に希釈したリン酸を検水一〇mlにつき一滴程度加えた。更に、残留塩素による後からのトリハロメタン生成可能性を否定するために0.5パーセント亜硫酸ナトリウム溶液を検水一〇〇mlにつき二滴加えた上、このガラス瓶をトリハロメタンが揮発しないように満水にし、テフロン中蓋付スクリュー栓で密栓して、氷冷した。このように調整した試験水四〇mlを、溶媒抽出法によって五〇mlの共栓付比色管にとり、トリハロメタン測定用ノルマルヘキサン一〇mlを加えた上、三〇秒間激しくふりまぜた後静置し、ノルマルヘキサン層から二μlをガスクロマトグラフ(昭和大学薬学部衛生化学教室所有・島津製作所製ガスクロマトグラフGC―3BE電子捕獲型検出器)に注入して、溶媒中のトリハロメタンを測定した。

右ガスクロマトグラフ法による各トリハロメタン測定の方法は以下のとおりであった。すなわち、ガスクロマトグラフに試験水を注入する前に、まず市販の低沸点有機ハロゲン化合物標準原液(トリハロメタンであるクロロホルム、ブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタン及びブロモホルム等の化合物を一定の割合で混合した溶液)をノルマルヘキサンで一〇〇〇倍に希釈した溶液を更に一〇〇〇倍、五〇〇倍などに希釈して標準溶液とした上、それぞれの液の二μlずつをガスクロマトグラフに注入してチャートを書かせ、各トリハロメタンの面積(クロロホルムについてはピークの高さ)と濃度との関係を表す検量線及び計算式を得た。次に前記のように各試験水から抽出したノルマルヘキサン液をガスクロマトグラフに注入してチャートを書かせ、各トリハロメタンを同定してその面積(クロロホルムについてはピークの高さ)を右で作成した計算式に当てはめて検水中に存在する各トリハロメタンの濃度を計算し、更に同様に水道水(原水)中の各トリハロメタンの濃度を測定することにより、検水中のトリハロメタンの濃度と、原水中のそれとの割合を除去率として求めた。その結果に基づいて記載したのが本件記事(一)である。

(2) 細菌数測定実験(本件記事(二)について)

各浄水器について実験開始時(平成四年二月五日)、四分の一経過時(同月一二日)、およそ二分の一経過時(同月一七日)、およそ三分の二経過時(同月二二日)、およそ四分の三経過時(同月二六日)、最終時(同年三月二日)に検水を採取(但し、ハーレーⅡについては、同年三月二七日にも採取)して以下のとおり行った(以下本件実験における測定時点についていうときは、右の例にしたがう。)。

すなわち、各検水を、乾熱滅菌機で一七〇度で二時間滅菌したビーカーに一〇〇ml採水し、その一mlずつを右同様に滅菌したピペットで、滅菌した二個のペトリ皿にそれぞれとり、その各ペトリ皿に標準寒天培地約二〇mlずつを流し込んだ上、各ペトリ皿を孵卵器に入れ、三六度の温度に保って二日間培養した後、一般生菌数を測定した。その結果を記載したのが本件記事(二)である。

(3) カビ臭除去実験(本件記事(三)について)

全浄水器について、使用最終経過時である平成四年三月三〇日に、新品と使用後のカートリッジからそれぞれ検水を採取して以下のとおり行った。すなわち、小タンクに水質試験用2―メチルイソボルネオール標準液を0.2ppbの濃度に調整してカビ臭をつけた水を作り、それを各浄水器に通して(新品のカートリッジと使用限界まで使用したカートリッジの双方を用いた。)、三〇〇mlの共栓付三角フラスコに各二〇〇mlずつとって検水とし、それを一五度の温度にしたものを被告社員九名ないし一三名が「ブラインドテスト」(銘柄を隠した上で官能するテスト)を行ってカビ臭を判定した。その結果を記載したのが本件記事(三)である。

2 本件記事(一)ないし(三)は、右のとおり被告における実験に基づく記事であるところ、実験に基づく記事の内容が真実であるというためには、①当該記事が実験結果を正しく記載していること、②右実験の結果自体が真実であることの証明がそれぞれ必要であると解される。そして本件実験が分子レベルないし細菌レベルの化学実験であることに鑑みれば、本件実験結果が真実であるか否かを肉眼で検証することは不可能であるから、それは実験目的に照らした実験方法の相当性を検討することにより明らかになるものというべきである。

3  本件各記事の真実性について

(一) 実験の前提となる各条件の設定について

(1) 器種の選択について

前記争いのない事実第二の一の2によれば、被告は本件実験に使用する浄水器として蛇口直結型七器種及び据置型一器種の合計八器種を選定しているところ、甲三一号証の1によれば、被告の右器種の選択方法は、もともと性能の異なる器種を比較に用いている点で相当でないとされているのでこの点について検討する。

確かに、乙一、八ないし一四の各1、2、一九号証及び証人杉村によれば、被告の選定した浄水器は、蛇口直結型として、本件浄水器の外クリンスイL七一一(三菱レイヨン・八八〇〇円)、清水くんUJ―四〇〇〇(宇部興産・二万九五〇〇円)、トレビーノ・スーパーミニ(東レ・八八〇〇円)、ピピオKS―二〇一(INAX・一万二八〇〇円)、ミズトピアTK七二三(松下電工・一万四三〇〇円)及びロカシャワー・ミニ(クリタック・一二〇〇円)の七器種及び据置型としてハーレーⅡ(一四万八〇〇〇円)の合計八器種であり、価格の点からしてもハーレーⅡと他の器種との間には相当の格差があること、浄水器の性能は、同じ濾材を使用している器種であれば、主として濾材の量によるところ、据置型は蛇口直結型に比して大型であるため、一般に性能が良く寿命も長いこと、したがって、両者の性能を比較する実験をした場合には据置型の浄水器の方が良好な結果が期待されることがそれぞれ認められる。

しかしながら他方、乙一号証及び証人杉村によれば、

ⅰ 本件記事中には「蛇口直結型だけをくらべたのでは、どうしても評価があまくなりがちです。モノサシとして、ホース取り付け型も一つ入れたいところです。そのためには、アメリカ製のハーレーⅡという浄水器も加えました。」「ネダンは約15万円。こんどの蛇口直結型の大半は1〜2万円で買えるのですから、子どものなかに大人が一人まじったようなものですが、あえて加えてみたわけです。」との、ハーレーⅡについては別格であることを明確にする記載が存在すること、

ⅱ 右記載は、本件記事の「浄水器は役に立つか」との題名を記載した冒頭の見開き頁において、実験のために選定した器種を紹介した直後に、かつ本文中に置かれ(前者について七行、後者について五行にわたる。)ていること、

ⅲ 被告がハーレーⅡをあえて本件実験に加えたのは、安全でおいしい水を取り戻すという本件実験の目的のために、浄水器全体の可能性を検討するという理由に基づくものであること、がそれぞれ認められるのであって、以上からすれば、被告が本件実験に据置型一器種を加えた理由は実験目的に照らして合理的なものと考えられる上、本件記事中の冒頭部分の適当と考えられる箇所に右器種が別格である旨の断り書きも挿入し、また前記値段の表示により、本件記事上ハーレーⅡと他の各器種の本体価格に相当の格差があることも分かるのであるから、読者にとってもハーレーⅡが別格であることは容易に理解可能であるといえる。したがって本件実験の器種の選定ないしその記事における表示の方法について不合理な点があるということはできない。

(2) 経時変化の考慮について

前記のとおり本件実験は平成四年二月五日から同年四月一日までのおよそ二か月間にわたって行われたものであるところ、甲三一号証の1によれば、浄水器は相当長期間にわたりかつ季節の変化等の中で使用されるものであるのだから、カートリッジ等の経時的変化を考慮すべきであるのに、実験期間が短すぎるとしているので、この点について検討する。

確かに、浄水器(特に蛇口直結型)の濾材カートリッジは、通常相当の長期間にわたり使用するものであるから、右使用期間に合わせた実験方法をとるのが最良の方法であることはいうまでもない。しかしながら、消費者向けの商品テストを実施する場合、消費者が当該商品を使用する前ないし使用中にその結果を発表する必要があると考えられるところ、長期間にわたり使用する商品について、右期間使用してからでなければ商品テストの結果を発表できないというのでは、新商品の開発、当該商品の販売中止等により発表に適当な時期を逸することにより、商品テスト自体成立し得ない場合があることが予想されるから、期間を短縮して実験を行っても性能の評価が可能であり、それが製造者にとって格別に不利な条件とならないと考えられる場合には、相当期間に短縮して実験を実施してもなお実験方法としての合理性を失わないというべきである。

そこで、この点を本件について検討するに、乙一、七、八ないし一四の各1、2、一六、一七、一九、四九、五〇及び八二号証によれば、

ⅰ 本件実験では一日の使用水量を一一l(三か月で一〇〇〇l)として、三か月が使用限界の器種については一〇〇〇lを通水することにしたのであるが、原告の設定している一日当たりの使用水量は二〇l(三か月で二〇〇〇lである。)であって、本件実験ではその半分を通水したにすぎないこと、

ⅱ 検水の採取の際には、各器種につい流水量を揃える措置をとったため、右の場合には毎分二lの流水量となるが、本件浄水器の通水可能量は毎分五l(原告設定の標準水量・被告の実験によれば、水圧一kgf/cm2以下では3.2から3.4l)あるのだから、検水の採取条件も本件浄水器にとって不利とはいえないこと、

ⅲ 被告は過去に二度(昭和四七年及び昭和六三年)、浄水器の性能についての商品テストを実施しており、その際も相当な期間に短縮して実験を行った経験があること、

ⅳ 各浄水器は、一日の使用水量ないし総通水量を設定した上、それを基準としてカートリッジの使用限界を定めており、この点からすれば、浄水器の性能に関しては、カートリッジの経時的変化よりも通水量が重視されているものと考えられること、

ⅴ 本件実験の方法も、総通水量を重視して各器種に比較的一致する値といえる三か月に一〇〇〇lを基準とし、各器種の使用限界に比例する水量を流すものであること、その際には通水期間(二〇日間)、水圧(一kgf/cm2)等の条件は、各器種について統一されていること(但し、ハーレーⅡについては四〇日間、水圧を3.8kgf/cm2として流水を行っているのではあるが、期間が長い点については証人杉村によれば、七年分の水量を流す必要と、定期的に熱湯を通す必要から相当の措置であると認められ、また水圧を上げている点については同器種に不利な設定ともいえるのであるが、本件においてこの点を論難するのは当たらない。)、

が認められるから、本件実験の条件設定は本件浄水器にとって不利とはいえず、また、各器種の総通水量を設定した上、他の条件を同一にして実験するのであれば、各浄水器について性能を比較することも可能であると考えられるから、被告の実験期間の設定に格別の不合理があるということはできない。

(3) 原水の水質の同一性について

甲三一号証の1によれば、原水の水質は常に変動しているのであるから、原水の水質が器種毎に異ならないように供給タンクを設ける等の措置をとるべきであるとされているので、この点について検討する。

確かに、甲一六、一八号証によれば、浄水過程での塩素の投入量は、原水中に含まれるアンモニアの濃度にほぼ比例して多くなるとされている。しかしながら、乙八二ないし八四号証によれば、

ⅰ 被告化学実験室における本件実験の際には、一本の水道管に約四〇cm間隔で設置された蛇口に各浄水器を取り付け、水圧を一定にした上ほぼ同時に通水していること、

ⅱ 被告は、右実験の際には、水道水の水質が一番変動していると考えられる朝の通水開始時において、水道管の最端の蛇口から約一〇分の捨て水をした上、残留塩素測定器により、塩素濃度が通常の塩素濃度である0.5ないし0.7ppm程度であるのを確認した後通水を開始したこと、

ⅲ 実験期間中である二月ころから三月ころにかけては、一年を通じて、水道水中のトリハロメタン及びその他の有機塩素化合物の量の変化が少ない期間であること、

ⅳ 水道水中のトリハロメタンの量は、水質に大きな変化がないと考えられる場合には、水温の影響が大きいところ、本件実験における原水(水道水)の水温は、実験期間を通して六度ないし一一度の範囲内にあり大きな変化はなかったものといえること、

がそれぞれ認められ、以上からすれば、本件実験における各器種に供給される原水の水質が、格別に異なるものであったとはいえず、また被告の本件実験目的に鑑みると、家庭生活での浄水器の性能検討のために、水道の蛇口に試験品を接続して実験することに意味があるともいえるから、実験のための供給タンクを設けなかったとしても、なお実験方法としての合理性を失うものではないというべきである。

(4) 検水と原水との同一性について

甲三一号証の1によれば、被告は、浄水器内部の空間の体積(容積から充填材等の容量を引いたもの・いわゆるデッドヴォリューム)を測定しておらず、したがって検水と原水との同一性が確保されていないと指摘するのでこの点について検討するに、乙八二号証によれば、各器種についての検水の採取は、採水日の通水終了間際に連続流水中に行うというのであり、かつ検水と原水とはほぼ同時に採水するというのであるから、特別に容量の大きな浄水器であれば格別、家庭用浄水器についての実験であること、学術発表を目的とした実験ではなく、前記のとおり消費者への情報提供を目的とした実験であることをも考えるならば、右条件下においては検水と原水の同一性ないしそうでなくとも検水と原水との、もとの水質についての同一性は、ほぼ確保されていたものと考え得る。

(5) 実験担当者の資格について

また、甲一九号証及び原告代表者によれば、本件実験の担当者には計量法で定める計量士の資格が必要であるというが、本件実験は商品テストに過ぎないものであるから、そのように解する必要はないと考えられる上、乙七二号証によれば、厚生大臣による水質検査施設指定(水道法二〇条三項)の要件としては、大学の理学部、薬学部等の卒業者が水質検査の担当者であれば足りるとしていることが認められるのであるから、本件実験においても、計量士の資格までは必要ないと解される。ただし、実験内容自体の専門性に鑑み、右水質検査を行い得る程度の者が担当することは必要であると考えられるところ、本件実験の中心担当者三名はそれぞれ薬学系修士、薬学部及び理学部の卒業の学歴を有する者であり、本件実験担当者の経歴として相当であるといえる。

(二) 本件記事(一)について

(1) 証拠(乙七、一九、二二ないし二八、四九、五一、五二・証人杉村)によれば、本件トリハロメタン除去実験の方法及びその結果については、以下の事実が認められる。

ⅰ 本件実験のうちトリハロメタン除去実験については、日本水道協会発行の「上水試験法」のうち低沸点有機ハロゲン化合物の分析方法及び日本薬学会発行の「衛生試験法・注解」の水質試験法に記載されている低沸点有機ハロゲン化合物の分析方法に基づいて行われた。

ⅱ そのうち前者は水道水のための試験方法であり、後者は衛生試験法の運用にあたっての標準的試験方法を示したものである。

ⅲ 被告は「暮しの手帖」の誌上において昭和六三年に浄水器についてのトリハロメタン除去実験を実施しており、証人杉村も右実験に携わった経験がある。

ⅳ 更に右各試験方法による検水の採取及び保存の方法、溶媒抽出法による低沸点有機ハロゲン化合物標準液作成の方法、溶媒抽出法によるガスクロマトグラフの試験操作方法(前処理・分析操作・検量線の作成・濃度の計算)と、前記被告の行ったトリハロメタン除去実験の方法(第三の三の1の(四)の(1))とは一致しており、被告は右試験方法に従って本件実験を行ったものと考えられる。

ⅴ 右実験方法により、本件浄水器に関してトリハロメタンの除去能力実験を実施して、その除去率(ただし、クロロホルムを除く。)を求めた結果は次のとおりである。

測定時点      除去率

①実験開始時(平成四年二月六日)

九七パーセント

②四分の一経過時(同月一二日)

45.3パーセント

③二分の一経過時(同月二〇日)

23.7パーセント

④四分の三経過時(同月二六日)

マイナス6.4パーセント

⑤最終時(同年三月六日)

5.1パーセント

ⅵ 右実験においては、本件浄水器について全体で三か月分一〇〇〇l(一日一一l)流水するのであるから、半月使用時点は約一六七l流水時(六分の一時点)であるところ、右実験結果によれば、同時点での測定はなされていないが、しかしながら、右実験結果から、被告の設定した流水量に従ってグラフを作成すると、約二二〇l流水時(二二日目)に、他方、原告の設定した一日の使用量二〇lに基づくときは一一日目に、それぞれ除去能力が半分以下になる。

ⅶ 本件浄水器の水圧一kgf/cm2での流水量は毎分3.2から3.4lであって、他の浄水器に比して多いことから、原告の設定した一日二〇lの使用も可能であると考えられ、そこで被告は本件実験結果を敷衍して一一日目と二二日目の間をとって半月を基準とした。

(2) この点甲三一号証の1ないし原告代表者によれば、被告による右実験の実施については①トリハロメタンの除去能力は時間的経過のみを問題とすべきではなく、カートリッジの使用限界との関係を考慮すべきである点、②検量線の作成方法が恣意的である点、③クロロホルムを除いた値でトリハロメタン除去率を計算することには合理性がない点で不十分な実験であると指摘するので、これらの点を順次検討する。

ⅰ カートリッジの使用限界について

証拠(乙一・証人杉村)によれば、①本件記事の冒頭の頁には、実験対象浄水器の写真とともに、使用限界がそれぞれ表示されていること、②本件記事(一)中のトリハロメタン除去能力のグラフは除去能力の経時的変化に着目して構成されてはいるが、各浄水器の使用限界以上にはグラフを作成せず、却って使用限界に達した時点でグラフを中断していること(ただし、使用限界内に一度除去能力がゼロになった場合には、その後に多少能力が回復してもグラフは中断している。)、③被告が右グラフを浄水器の使用限界の観点から構成しなかったのは、消費者が浄水器を使用する場合の関心は、各メーカーの設定した使用限界に関係なく、どのくらいの期間使用した場合に除去能力が劣化するのかの点にあると考えられたことによること、が認められる。以上からすれば、本件記事の構成によっても除去能力と使用限界との関係を知ることは可能であるばかりでなく、本件実験の目的に照らせば、経時変化を重視してグラフを構成することも合理性があると考えられるから、原告の批判はあたらないというべきである。

ⅱ 検量線の作成について

証拠(乙五一、五三ないし五七、八二・証人杉村)によれば、①被告は本件トリハロメタン除去実験における測定日(五回)においては、毎回検量線を作成していること、②標準液のチャートにおいてはトリクロロエタンとクロロホルムのピークが近接しているものの、判別は可能であり、また検水のチャートの読み取りの際、実際の水道水にはトリクロロエタンはほとんど存在しないため、右物質とクロロホルムのピークを間違えることはないこと、③被告は適時溶媒のノルマルヘキサンをガスクロマトグラフに注入して、ブランクテストを実施していたこと、④被告が右各時点に作成した検量線は、いずれもほぼ測定点を通過していること、⑤四分の三時点においては各物質の検量線を引き直す作業をしているが、測定点を無視しているものではなく、かつ右引直しによっても、本件実験目的に鑑みれば、実験結果に影響はないと考えられること、⑤なお溶媒抽出法による実験においては、検量線作成の際、標準試料の抽出操作までは不要であること、がそれぞれ認められる。以上からすれば、本件実験における検量線の作成については、格別不合理な点を認めることはできない。

ⅲ クロロホルムを除いた値での除去率計算について

証拠(乙二二ないし二五、四九、五五、五六、五八、七〇・証人杉村)によれば、①トリハロメタンとはクロロホルム、ブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタン及びブロモホルムという四種の有機塩素化合物の総称であるところ、通常水道水中においては、右四種の化合物はほぼバランスを保った割合(クロロホルムについては、ほぼブロモジクロロメタンと同じくらいの値)により含まれていること、②しかしながら本件トリハロメタン除去実験の原水中におけるクロロホルム、ブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタン及びブロモホルムの各測定時点での割合(ppb)は、実験開始時が順に5.64、6.91、3.72及び0.27、四分の一経過時点が8.70、6.85、4.47及び0.35、最終時点では6.23、9.05、4.36及び0.24であったのに比して、二分の一経過時点においては、25.57、6.86、4.91及び0.377、四分の三経過時点においては19.1、5.88、3.24及び0.25であって、二分の一経過時点及び四分の三経過時点においては、クロロホルムの割合が異常に高い結果が出たこと、③被告はこの原因を究明するため、実験室内の空気、外気及び溶媒のみをガスクロマトグラフに注入し、何らかの理由により実験室内の空気にクロロホルムが漂い、それが溶媒に溶けたために、右の如き異常な結果が出たことを確認したこと、④被告は右二つの時点におけるブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタン及びブロモホルムについての検量線を作成したところ、面積と濃度がほぼ比例し、かつ原点を通る結果を得たことから、クロロホルム以外のトリハロメタンについては、右二つの時点のデータも信用し得ると考えたこと、⑤証人杉村は、大学院の薬学系修士過程の卒業であり、ガスクロマトグラフの操作にも通じていること、⑥被告は異常の出なかった実験開始時、四分の一経過時点及び最終時点でのクロロホルムを含めた除去率とクロロホルムを除いた三種の化合物の除去率の相関関係を検討したところ、一〇パーセントの誤差の範囲内で両者の値が一致したこと、⑦前記上水試験法によれば、水質検査の場合には、実験結果の誤差が一〇パーセントの範囲内であれば、その結果は良好とされていること、⑧そこで被告は本件実験が消費者向けの商品テストであるという目的も考慮した上、クロロホルムを除いた三種の化合物の除去率を総トリハロメタンの除去率として表示し得るものと判断したものであること、がそれぞれ認められる。

以上の事実からすれば、本件トリハロメタン除去実験においてクロロホルムの値を除いた上で除去率を計算したとしても、なお商品テストのデータとしての正確性は失われないと解すべきである。

(3) 以上からすれば、本件トリハロメタン除去実験は経験のある者が、一般的に認められている合理的な実験方法により行い、かつその実施については格別に不合理な点はなかったものと認められるとともに、右相当と認められる実験により、本件記事(一)に記載されている「アクアゴールドは、半月も使うと、50%以下しかとらなくな」る結果が得られたのであるから、それを記載した本件記事(一)の内容は真実であると認めるのが相当である。

(4) この点甲九号証によれば、原告は同社の浄水器について東京食品技術研究所にトリハロメタン除去実験を依頼したところ、通水当初の除去率は約九二パーセント、一〇〇〇l通水時及び二〇〇〇l通水時の除去率はいずれも約四二パーセントであったというのであるが、甲一二号証、乙三号証及び原告代表者本人によれば、右試験の対象品は「アクア・ノア」であって、本件浄水器とは異なる商品である可能性があること、右試験についてはその通水方法等の実験方法が明らかでなく、直ちに本件実験に比較し得る結果であるとは言い難いことからして、右実験結果の存在により、直ちに本件実験結果が真実でないということはできない。

(三) 本件記事(二)について

(1) 証拠(乙一九、乙三八、三九、四九、五〇、六三、六四・証人杉村)によれば本件細菌数測定実験の方法及びその結果については以下の事実が認められる。

ⅰ 本件実験のうち細菌数測定実験については、前記「上水試験法」のうち微生物試験の方法及び前記「衛生試験法・注解」の水質試験法に記載されている細菌試験の方法を参考にして行われた。

ⅱ 被告は「暮しの手帖」の誌上において過去に二度浄水器について本件と同様の方法による細菌数測定実験を実施しており、証人杉村も右各実験に携わった経験がある。

ⅲ 更に右各試験方法によれば、ガラス製器具及び金属製器具については乾熱滅菌すべきこと、乾熱滅菌の時間は一七〇度の場合一時間以上とすること、検水は一mlずつ採取してこれを二枚以上培養することとし、各ペトリ皿には標準寒天培地を約一五mlずつ流し込むこと、培養は三五ないし三七度で二三から二五時間程度行うことがそれぞれ指示されており、被告の行った細菌数測定実験(第三の三の1の(四)の(2))は右指示をいずれも満たしている。

ⅳ 右実験方法により本件浄水器に関して、滞留水及び三〇秒流水後の一般細菌数を測定した結果は次のとおりである。

測定時点  滞留水 三〇秒流水後

①実験開始時(平成四年二月五日)

〇 〇

②四分の一経過時(同月一二日)

五〇 二〇

③二分の一経過時(同月一七日)

九〇〇 二

④三分の二経過時(同月二二日)

一九〇〇 二

⑤四分の三経過時(同月二六日)

三七五〇 二三〇

⑥最終(同年三月二日)

六四〇〇 三三

ⅴ 一方、一般細菌に関する水道水の水質基準値は一ml当たり一〇〇個以下であること、そして、本件浄水器についての実験は三か月分として一〇〇〇l流水するものであるから、二か月使用時点は右④の三分の二経過時点であると考えられるところ、右時点以降の滞留水中の一般細菌の数は数千個に達している。

(2) この点甲三一号証の1によれば、被告が具体的に右実験を実施するについては、①十分な殺菌措置がされていない点、②空気中の落下細菌の防止措置をとっていない点、③水が浄水器中に滞留している時間を一定にする必要がある点、④細菌の種類の特定をしていない点で不十分な実験であると指摘する。しかしながら、乙八二号証及び証人杉村によれば、

ⅰ 被告は、実験器具については、試験方法の書籍に従って乾熱滅菌し、かつ手指の消毒も行っていること、

ⅱ ペトリ皿に検水と培地を流し込む際には、一般に細菌数測定の際に使用される方法である、ガスバーナーにより上昇気流を作って空気中の落下細菌の混入を防ぐ措置をとったこと、

ⅲ 浄水器中に滞留する時間については、通水終了時刻と採水時刻を計ることにより、器種により差異が生じないように配慮したこと、

ⅳ 一か月程の通水期間中に増殖速度の速い変異株が出現する可能性は殆どないと考えられるから細菌の種類までを検討する必要のないこと、

がそれぞれ認められるから、被告の具体的な本件実験の実施方法について不合理な点があったものとは認められない。

確かに、証人杉村によれば、被告の実験においては浄水器やカートリッジ自体の滅菌や無菌室の使用をしていないのではあるが、被告の本件実験目的が、前記のとおり一般消費者の家庭生活における浄水器の性能を実験するところにあるものであり、試験室内における性能の実験ではないことに鑑みるならば、むしろ浄水器やカートリッジ自体の滅菌は行わないことに合理性があるものともいえるし、また、乙三九号証によれば本件浄水器以外の全ての浄水器は〇ないし一〇程度の細菌数しか測定されていないことからすれば、右滅菌を行わなくとも細菌の混入の危険はなかったと解し得るから、この点の批判は当たらない。

(3) 以上からすれば、本件細菌数測定実験は経験のある者が、一般的に認められている合理的な実験方法により行い、かつその実施については格別に不合理な点はなかったものと認められるとともに、右相当と認められる実験により、本件記事(二)に記載されている「アクアゴールドは二カ月も使うと、朝一番の水に、水道水の基準以上の数百コから数千コの細菌がでて」くる結果が得られたのであるから、それを記載した本件記事(二)の内容は真実であると認めるのが相当である。

また、右記事に続く「テストしたのは一年中で水の一番冷たい季節です。夏にはもっとふえるかもしれません。」との推測記事についても、右真実と認められる実験結果に基づく合理的な推測と考えられるから、名誉毀損の違法性を欠くというべきである。

(4) この点甲六号証によれば、原告は同社の浄水器について東京食品技術研究所に一般細菌数の推定実験を依頼したところ、二〇〇〇l通水後、四八時間滞留させた後の通過水の一般細菌数は、一ml中〇個であったというのであるが、甲一二号証、乙三号証及び原告代表者本人によれば、右試験の対象品も甲九号証と同じく「アクア・ノア」であって、本件浄水器とは異なる商品である可能性があること、右試験については二〇〇〇lを毎分四lの割合で通水したとの記載があるのみで、その通水方法等の実験方法が明らかでないことから、直ちに本件実験に比較し得る結果であるとは言い難く、したがって、右実験結果の存在により、直ちに本件実験結果が真実でないということはできない。

(四) 本件記事(三)について

(1) 証拠(乙一九、二一、六一、六二、六九、八二、八四・証人杉村)によれば、本件カビ臭除去実験の方法及びその結果については、以下の事実が認められる。

ⅰ 本件実験のうちカビ臭除去実験は、前記日本水道協会発行の「上水試験法」のうち臭気試験の方法及び前記日本薬学会発行の「衛生試験法・注解」の水質試験法に記載されている臭気試験の方法を参考にして行われた。

ⅱ 被告は「暮しの手帖」の誌上において昭和六三年に浄水器についてのカビ臭除去実験を実施しており、証人杉村も右各実験に携わった経験がある。そして右実験の際には原因物質の化学分析も行われたが、併せて官能テストも行われていた。

ⅲ カビ臭除去実験について官能テストのみを用いている例もある。

ⅳ 右試験方法によれば、検水一〇〇mlを三〇〇mlの共栓付三角フラスコにとって室温で実験するとされており、被告の実験方法(第三の三の1の(四)の(3))は概ねこれに沿うものである。

ⅴ 右実験方法により本件浄水器の新品と使用済み(平成四年三月三〇日時点)のそれぞれのカートリッジについて、2―メチルイソボルネオールによりカビ臭をつけた水を、①希釈せず、②一〇倍に希釈して、それぞれカビ臭の除去性能を実験した結果は次のとおりである(なお、判定方法は○から××までの一二段階である。)。

①希釈せず(新品)

△一名・×七名・××五名

希釈せず(使用済)

△二名・一名・×二名・××四名

②一〇倍希釈(新品)

△二名・二名・一名・×三名・××二名

一〇倍希釈(使用済)

△一名・×七名・××二名

ⅵ 右の結果によれば、希釈しない試験水について本件浄水器の新品のカートリッジを使用した場合には、一三名中一二名が×以下の評価(ただし、×は最下位から三番目に悪い評価であり、××は最下位の評価である。)をしている。

(2) この点甲三一号証の1によれば、被告の実験実施について、①被告において殊更に臭いの強い調整水を用いて実験している点、②官能テストによる場合には、他の検水の臭いの影響を防止すべきであるが、この点の措置が十分でない点、③カビ臭の原因物質である2―メチルイソボルネオールの化学分析をしていない点で不十分な実験であると指摘する。しかしながら、

ⅰ 被告は前記のとおり、本件カビ臭除去実験の際、2―メチルイソボルネオールを0.2PPbの濃度に調整しているのであるが、乙四、一九、七一号証によれば、実験の際調整水を用いること自体は他の商品テストでも採られている方法であり、被告も実際昭和六三年の実験の際には0.2PPbの濃度の調整水を使用している上、昭和六〇年ころの報告によれば、東京周辺の水道水の2―メチルイソボルネオールの濃度は0.01から0.2PPbとされており、0.2PPbの濃度も日常生活において存在し得る濃度であるといえることからして、右濃度の調整水を用いることはあながち不合理とはいえないこと、

ⅱ 乙八二号証によれば、本件官能テストの際には、一つの検水を飲んだ後は、必ず無臭の水で口をゆすいでから次の検水に移ることにより、前の検水の影響を防止していたこと、

ⅲ 乙八二号証によれば、被告は昭和六三年の実験においてカビ臭の原因物質の化学分析と官能テストを平行して行った経験から、化学分析を省略しても実験結果に影響を及ぼさないと判断したというのであって、その根拠には合理性があると考えられること、また前記のとおり、カビ臭除去実験を官能テストによってのみ行っている例もあること、

がいずれも認められるのであり、本件実験が特に嗅覚の鋭い者ではなく、一般人がどのように感じるかということを目的としていることからも、被告の具体的な実験実施方法についてなお不合理な点があったとはいえない。

(3) 以上からすれば、本件カビ臭除去実験は、経験のある者が、一般的に認められている合理的な実験方法により行ったものであり、かつその実施について格別に不合理な点はなかったものと認められるとともに、右相当と認められる実験方法により本件記事(三)のうち「アクアゴールドは最初から、もとの水と同じくらい強いニオイの水が出てき」た結果を得たのであるから、それを記載した本件記事(三)の右内容は真実であると認めるのが相当である。

また、本件記事(三)の「カビ臭さをとるために、この浄水器をつけたりしたら悲惨です。」とのコメントに関しては、右真実と認められる本件浄水器のカビ臭除去実験の結果に基づくものであり、かつ証人杉村によれば、右は同人が記載したものであるところ、これは消費者がカビ臭を除去する目的で本件浄水器を購入した場合には、その目的を達成することができないと考えられることから書いたというものであるから、なお本件実験結果に基づく論評の域を出ないものというべきであり、したがって原告に対する名誉毀損とはならないと解するのが相当である。

(4) この点七号証の1ないし3によれば、原告が同社の浄水器について東京食品技術研究所に水質試験を依頼したところ、通水当初及び二〇〇〇l通水時において、いずれも「臭気」に「異常なし」との結果を得ているのではあるが、原告代表者によれば、右実験の試験対象品も甲九号証等と同じく「アクア・ノア」であって、本件商品と異なる商品であるとの疑いを払拭できないこと、また右実験においては原水自体「臭気」に「異常なし」との測定を得ているのであり、右実験から判明するのは対象浄水器通過水から新たに臭気は発生しないという事実であって、直ちに本件実験に比較し得る結果であるとは言い難いことから、結局右実験結果の存在により、直ちに本件実験結果が真実でないということはできない。

(五) 以上の検討結果からすれば、結局本件記事(一)ないし(三)についてはいずれもその内容は真実と認めることができ、名誉毀損の成立要件としての違法性を欠くものというべきである。

四 よって原告の請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官佐藤康 裁判官稻葉重子 裁判官竹内努)

別紙

謝罪広告

当社は、当社の発行する雑誌「暮しの手帖」第三八号(一九九二年六月・七月号)に浄水器関連記事を掲載しましたが、その中で、トータス株式会社の製造・販売にかかる浄水器、商品名「アクアゴールド」とアール・エッチ・エス製「ハーレーⅡ」とを比較し、「ハーレーⅡ」が優れていると記載しましたが、これは事実に反するばかりではなく、そもそも前者は蛇口直結型であり、後者は据置型であって商品の性質が異なり、単純にその性能を比較することはできないものでありました。

また、「アクアゴールド」については、朝一番の水に水道水基準以上の細菌が発見されたし、半月もするとトリハロメタンの除去能力が五〇パーセント以下に落ちると記載いたしましたが、いずれも事実に反するものでありました。

また、各浄水器に要する費用につきましても七年間という期間で比較いたしましたが、これも「ハーレーⅡ」に有利となる期間設定であり、必ずしも合理的設定ではなかったものであります。

全体として記事は、「ハーレーⅡ」を「アクアゴールド」に比し、優位性のあるものと位置づけ、「アクアゴールド」を殊更誹謗し、「アクアゴールド」を使用することは「悲惨」であると記載したことは、誠に不適切な表現でありました。

これらは、当社のテストが極めて不相当なことによるものであり、トータス株式会社に営業上多大の迷惑をかけたことは誠に申し訳ありません。

今後は絶対に、このようなことのないよう誓い、併せてトータス株式会社の営業上の信用回復のため、茲に謝罪の意を表明致します。

平成四年 月 日

東京都港区六本木三丁目三番一号

興和六本木ビル

株式会社 暮しの手帖社

代表取締役 大橋鎮子

東京都文京区白山一丁目三七番六号

トータス株式会社

代表取締役 世永育子殿

備考

掲載に際して使用する活字の大きさ・掲載回数は、次のとおりとする。

(一) 活字の大きさ

会社名・氏名及び標題 二倍活字

その他 1.5倍活字

(二) 掲載回数一回

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